予備試験無双

令和2年予備試験合格(短答・論文・口述全て二桁前半の順位)

『刑法総論の悩みどころ』(橋爪隆)

 こんにちは、アポロです。昨日発売された『刑法総論の悩みどころ』(橋爪隆)を約3時間でザッと読みました。

 そもそも、同書は「橋爪連載」として法学教室に連載されたものをまとめたもので、そこから最新の判例や学説を踏まえて加筆修正がされたものです。

 そして、橋爪先生は今年の司法試験委員にも就任されており、また、『刑法事例演習教材【第2版】』の著者の一人でもあります。なので、難しい議論に深入りする必要はないと思いつつも、気になるポイントだけ押さえる形でザッと通読しました。

 以下、その感想を書きます。

 

 ①因果関係の論証を変更することにした

 基礎事情に絞りをかける伊藤塾のような論証に対して、「はじめから実行行為の影響力の程度を問題にすればたりるのであり、あえて介在事情を限定してから相当性を判断するというプロセスを採る必要性は乏しい」(7p)と書かれていました。要は、危険の現実化説によれば、「因果関係が否定されるのは、実行行為が結果惹起に直接的な影響を及ぼしたわけではなく、かつ、介在事情の介入が実行行為との関係で異常な事態と評価される場合に限られる」(11p)のであって、「通常の事例については条件関係と危険の現実化を区別して論じる必要はなく、端的に危険の現実化を問題にすれば足りる」(12p)とのことです。もっとも、「危険の現実化の枠組みを採用しつつ、危険性の判断資料としては折衷説を採用することも理論的には可能」(15p)とのことで、伊藤塾の立場が否定されてはいませんでした。ただ、個人的にはあの論証は少し長い気もしますし、純粋な危険の現実化説の論証に変えることにします。

 ②「第4章 正当防衛状況の判断について」だけ熱量が違った

 最決平成29年4月26日あたりの議論は特に受験生目線で書かれていた気もしますし、規範の考慮要素の当てはめなどもかなり詳しく書かれていました。また、同判例は「侵害回避義務論」という橋爪先生の最初の研究テーマとの親和性もあり、特別な思い入れがある感じが伝わってきました。さらに、まだまだ発展途上の議論とのことです。というわけで、今年の予備試験に出そうな(というか、試験に出したそうな)感じが伝わってきました。

 

 ③共犯関係の解消・共謀の射程の説明が非常にわかりやすい

 この辺りもかなり受験生目線で書かれていた気がするので、ここだけでも立ち読みする価値はあるかと思います。個人的には、「犯行からの排除」(370〜371p)の説明は感動しました。この辺りは『刑法事例演習教材【第2版】』の解説の歯切れが悪いと感じていたので、スッキリしました。

 

 ④共同正犯の論証を全体的に変更することにした

 『刑法事例演習教材【第2版】』の私の解答を見ていた方はわかると思うのですが、私は共犯の処罰根拠を「相互利用補充関係」で書いていました。「因果性」で書くのが主流なことは知っていましたが、実質的に当てはめ等も変わらないので放置していました。しかし、承継的共犯においてはその考え方次第で当てはめや結論が変わり得るところ、本書では相互利用補充関係を根拠にする積極的利用説(自説)が明確に否定されていました。「積極的利用説が因果性の及ばない結果惹起であっても、積極的な利用関係があれば遡って処罰を基礎づけようとするものであれば、同説を正当化することは困難」(p389)であり、「因果性の欠如を正犯性(相互利用補充関係)で埋め合わせるのは不可能」(p390)とのことでした。以前から違和感を感じていた自説を完全に論破された気がしたので、承継的共犯の論証を因果的共犯論を根拠にする全体的評価説に変えることにします(「承継的共同正犯の学説と判例」という記事もとりあえず削除します)。そして、それに伴って共同正犯の論証も全体的に「因果性」を処罰根拠にすると修正することにします。

 

 というわけで、本書はかなり難解な議論が含まれているので、受験生が買う必要は必ずしもないと思いますが、図書館や友達から借りたり、気になる箇所を立ち読みしたりする価値は十分にあるかと思います。また、『刑法事例演習教材【第2版】』との相性が良いように感じたので、同書を利用している方はその辞書として使うのはかなりオススメできます。私自身いくつか論証を変更するに至ったので、解答例も修正しておきます!