予備試験無双

令和2年予備試験合格(短答・論文・口述全て二桁前半の順位)

平成24年予備試験刑法

 こんにちは、アポロです。毎日過去問生活9日目、今日は平成24年予備試験刑法を解きました。

 完全な初見ではないですが、実際に書いたのは初めてです。かかった時間は70分でした。

 

〜選んだ解答筋〜

・甲の乙に対する傷害罪?

 ①構成要件に該当。

 ②同意によっても違法性阻却されない。

 ③成立。

・甲のAに対する傷害罪?

 ①実行行為、結果あり。

 ②因果関係あり。

 ③故意?→具体的事実の錯誤→○。

 ④成立。

・甲の詐欺未遂罪の共同正犯成立。

・甲の乙に対する傷害罪とAに対する傷害罪は観念的競合、これらと詐欺未遂罪は併合罪

・乙のAに対する傷害罪?

 ①構成要件に該当。

 ②故意?→自傷の故意は観念できない→Aに対する故意はない

 ③不成立。

・乙の詐欺未遂罪の共同正犯成立。

・丙の各犯罪の共同正犯?

 ①共謀共同正犯の構成要件に該当。

 ②離脱による共犯関係の解消あり。

 ③不成立。

 

〜個人的な反省〜

・甲の乙に対する傷害罪について、実行行為・結果発生・因果関係・故意を丁寧に認定したが、少し冗長であった。全く争いのない部分だから、「傷害」という要件だけ端的に認定すれば足りた。

・甲の乙に対する傷害罪について、「同意による違法性阻却」の論述のバランスが悪かった(規範6行、当てはめ4行)。論証はかなり丁寧だが、やや冗長なので、おそらくそれほど評価されない。規範は3行くらいで簡潔に書いた上で、当てはめでは「頸部」という損傷の部位にも着目すべきだった。皮肉なことに、自分がよく勉強している分野ほどいざ出題された時には冗長に書いてしまい、全体として評価を下げることがある。「知識をひけらかす」という癖は本当に危険なので、早期に改善する必要がある。

 

 

〜問題の分析〜

・論点が多いため、バランスを誤ると書き終わらない問題。やや難といったところか。

・甲の乙に対する傷害罪について、まず、「同意による違法性阻却」が問題となる。ここは一つの腕の見せ所であるため、丁寧な事実認定をしたい。最低限、詐欺という不法な動機・目的を有していることを挙げれば足りるが、それだけではやはり弱い。なぜなら、詐欺という違法な目的を有していたことのみを理由に傷害罪の違法性が阻却されないというのなら、正に「違法性の二重評価」という判例への批判が妥当してしまうからである。だからこそ、判例も動機・目的以外の考慮要素も多数挙げている(実際には当てはめていないが)。本問では、自動車を利用するという身体傷害の手段・方法が危険の制御が困難なものであること、頸部という損傷の部位が人体の枢要部として危険性が高いことも、是非指摘したいところである。再現答案を見ても、ここの当てはめは比較的雑であり、それでもA評価はきている。しかし、「被害者の承諾」(出題趣旨より)は本問のメイン論点の一つであるから、ここを丁寧に当てはめればもっと評価されたはずである。

・甲のAに対する傷害罪について、まず問題となるのは、因果関係である。もっとも、三段論法は不要で、危険の現実化説から、「凍結した路面で自己の車を他人の車に衝突させる行為には、衝突の衝撃で押し出された車が横断歩道を歩いている人に接触し、その人が転倒して手首を骨折する危険性が含まれる」といった当てはめだけすれば十分である。

・甲のAに対する傷害罪について、次に、具体的事実の錯誤が問題となる。法定的符号説・数故意犯説に立つ限り、当然に故意は阻却されない。

・詐欺未遂罪については、特に論点はないからこそ、「欺」く行為の定義を示しつつ、錯誤がないため未遂であることを書き、貪欲に点数を取りに行きたい。

・乙のAに対する傷害罪については、刑法では珍しく、(多くの受験生にとって)現場思考型の論点が出た。具体的事実の錯誤で処理しようとすると、「傷害罪における『人』の意義」(出題趣旨より)という考えたこともない壁にぶち当たる。刑法ではとにかく「守りの答案」を作成すべきであるから、ここで論述全体が変な方向にズレたり、論理矛盾を起こしたり、時間や紙幅を使いすぎてしまうのが一番の失敗である。ある程度勉強した受験生が悩む論点というのは、基本的に「正解」がないことが多い。また、刑法に限らず、現場思考の論点で合否が決まるような問題も基本的にはない。現に、この年はこの論点ではそれほど差はついていないようである。そうだとすれば、自分なりの考えを端的に示し、さっさと次に進むのが賢明である。もっとも、「自傷の故意なんて観念できないから、甲の場合に具体的事実の錯誤で故意を認めた理屈は通用しない」ということに気づければ、十分解答できたはずである。

・乙の医師に対する詐欺利得罪については、書けなくとも合否には全く影響しないと思われる。むしろ、「必要以上に長期間の通院をすることが財産上の利益か」などと現場で悩む方が問題である。「書かない勇気」も大切であり、無視して良いレベルの犯罪であった。

・丙の共謀共同正犯については、いきなり「離脱による共犯関係の解消」に飛びついてはいけない。まずは、丙に共謀共同正犯が成立し得ることを指摘する必要がある。本問では、丙はX車を運転するという犯罪の実行に不可欠な重要な役割を担当する予定だったこと、保険金を山分けする予定だったことなど、正犯性を基礎づける事実を拾う必要がある。どこまで丁寧に書くは悩ましいが、最低限の論述は要求される。では、丙に「離脱による共犯関係の解消」が認められるか。結論として、これは認めるべきであろう。物理的因果性も心理的因果性も解消されていると評価するのが普通である。もっとも、「共謀の段階で既に結果発生への因果が進行している」などと認定すれば、「何らの防止措置もとらなかった」として解消を否定することも一応は可能である。ただ、共犯関係の解消も結局は価値判断が先行する規範的評価にすぎないところ、本問の丙に正犯と同様の罪責を負わせることが妥当だとは到底思えない。刑法であっても、この「具体的妥当性」を基準とした価値判断は重要である。特に、乙がAに対して罪責を負わないのに(特別法を除く)、丙はAに対して罪責を負うというのは、直感的におかしい。やはり、丙については共犯関係の解消を認めるのが妥当である。

 

〜予想採点実感〜

・「被害者の承諾」(出題趣旨より)については、多くの答案では正確に論述されていた。しかし、多くの答案では、「詐欺という動機・目的は社会的に相当でない」というだけで違法性阻却を否定しており、具体的な検討が不足している印象を受けた。例えば、詐欺という動機・目的であっても、行為態様が異なれば社会的相当性が肯定される余地はないであろうか。あるいは、損傷の部位が異なれば、どうであろうか。「社会的相当性があれば違法性が阻却される」という規範的要件を定立する以上、その当てはめにおいては諸般の事情が考慮されるべきである。また、行為者の主観のみで違法性阻却の有無が結論づけられるというのは「主観主義」との批判もあり得るところである。この辺は判例も様々な考慮要素を判示しているところであり、本問の事実からそれらを抽出するのはさほど難しくないと思われる。そのため、かかる検討が不足している答案については、具体的な事案を丁寧に検討する能力が不足しているとの印象を受けた。

・「方法の錯誤」(出題趣旨より)については、多くの答案では正確に論述されていた。もっとも、規範定立がやや不正確な答案が一定数あった。ごく基本的な論点であるため、それらの答案については「基本的理解」(出題趣旨より)が疑われる結果となった。

・「共謀の意義」(出題趣旨より)については、一切言及していない答案が多かった。それらの多くは、 「共犯関係からの離脱」(出題趣旨より)のみを書いていたが、離脱の前提として共謀が成立していることに言及する必要がある。丙は共謀のみに参加している以上、「共謀の意義」に言及せずにいきなり離脱や解消の問題は生じないはずである。また、「因果性の解消により離脱としての共犯関係の解消が認められる」という規範を定立するなら、共謀により因果性を及ぼしたことを先に認定する必要がある。「共犯関係からの離脱」については多くの答案で適切に論じられていただけに、その前提について誤った理解を示している答案が多かったのは、非常に残念であった。

・「傷害罪における『人』の意義」(出題趣旨より)については、適切に論じられている答案は多くなかった。多くの受験生は事前に同論点を知らなかったものと予想されるが、何とか気づいてほしいところではあった。乙自身についての傷害罪が成立し得ないことを前提に、Aに対する傷害罪の故意について検討すれば、同論点に気づくことは十分可能であった。そもそも同論点に気づかなかったという者については、実行行為・結果発生・因果関係・故意といった体系を意識せずに、犯罪の成否を場当たり的に検討している可能性がある。必ずしもこれら全てに答案で言及する必要はないが、少なくとも頭の中では、一度全ての体系レベルで問題が生じないのか検討するようにしてほしい。また、同論点に言及している答案でも、「Aに対する未必の故意があった」として故意を肯定している答案が多かった。しかし、問題文には「乙は、乙以外の者に怪我を負わせることを認識していなかった」と明確に書いてある以上、かかる構成には無理がある。また、仮に未必の故意が認められるならば、甲の罪責では方法の錯誤を論ずるまでもなく故意が認められるはずであるが、かかる答案の多くでは甲の罪責で方法の錯誤について検討していた。かかる答案は、「事例への当てはめが論理的一貫性を保って行われている」(出題趣旨より)とはいえず、低く評価せざるを得なかった。

 

 

 こんな感じですかね〜。本問は論点が多く、70分かけて4頁びっしり書きました。予備試験の刑法は時間と紙幅に比して論ずべき内容が多く、最も途中答案のリスクがある科目です。そのため、日頃からコンパクトな論証や当てはめを練習する必要があり、その意味では苦労する科目です。個人的にも、「書き出しが冗長になる」「得意な論点が出たら知識をひけらかす」という悪い癖のせいで、丙の罪責検討の段階では時間も紙幅もピンチでした。また、本問の内容としては、例年以上に「論理的一貫性」が問われるものであり、現場思考要素もあって、非常に面白いです。なので、総合的に見て、本問は良問です!

 

 今日の一曲…The Chainsmokers - Waterbed (feat.Waterbed)