予備試験無双

令和2年予備試験合格(短答・論文・口述全て二桁前半の順位)

平成26年予備試験刑法

 こんにちは、アポロです。毎日過去問生活12日目、今日は平成26年予備試験刑法を解きました。

 実際に答案を書いたのは、1年2ヶ月ぶり2回目です。かかった時間は68分でした。

 

〜選んだ解答筋〜

・甲の詐欺罪?

 ①重要事項の偽り○、占有移転の外形的事実の認識○、民法708条但書→「欺」く行為○。

 ②錯誤○。

 ③法禁物でも「財物」○、「交付」○。

 ④成立。

・甲の強盗殺人未遂?

 ①反抗抑圧、確実具体的な利益移転→「暴行」○、「財産上不法の利益」○、「強盗」○。

 ②240条後段は殺意あっても適用。

 ③生命侵害をもって既遂。

 ④正当防衛?→「急迫」○、「不正」○、「防衛するため」○、「やむを得ずにした」×。

 ⑤成立。

・乙の盗品等保管罪?

 ①仏像は「財産に対する罪によって領得された物」○。

 ②知情以降は「保管」○。

 ③成立。

・乙の横領罪?

 ①「他人の物」○。

 ②所有者でない者との犯罪行為の委託信任関係も保護→「占有」○。

 ③「横領」○。

 ④成立。

 

〜個人的な反省〜

・裏テーマとして、「論点を全て拾いつつ、全て三段論法崩しで書く」というものを設けて挑んだ。結果として、全ての論点に触れることができ、目標は達成できた。ただ、以下のような減点ポイントがあった。

・正当防衛において、「不正」の部分で自招侵害のようなロジックで書いたが、これは判例の理解が誤っていると受け取られかねない。自招侵害的な要素と「不正」の認定は明確に区別して論じるべきであった。

・正当防衛において、防衛行為の相当性を否定した後に過剰防衛(36条2項)を書き忘れた。

・横領罪において、「代金を費消した行為」の時点が既遂時期であるような書き方をしてしまった。その結果、「仏像の対価である500万円は仏像の所有者であるVの物として『他人の物』である」などと不要なことを書いた(「仏像はVの物として『他人の物』である」で良かった)。また、上記の誤りから、代金を費消する行為が「横領」に当たるとしてしまった。結果的に、横領罪の既遂時期を誤ったせいで連鎖的な減点を受けることになった。

 

〜問題の分析〜

・とにかく論点が多い。初見で全ての論点を拾うのは相当に難しい。もっとも、各論の構成要件に事実を丁寧に当てはめていれば、多少論点を落としてもA評価がついている印象。

・甲の詐欺罪について、「窃盗と詐欺の区別」・「不法原因給付と詐欺」・「法禁物の財物性」が問題となる。前二者は典型論点なので、抽出できないとまずい。もっとも、詐欺罪におけるこれらの論点は書き方が難しい。

 まず、「窃盗と詐欺の区別」については、答案の冒頭で窃盗を否定している答案があるが、そのような書き方は論点主義的な印象を受けるため、心証は良くないと思われる。そのため、構成要件の中で同論点を検討するべきであるが、問題は、いかなる構成要件の中で検討するかである。この点、「交付」という文言の中で検討している答案が多かったが、未遂と不成立の区別を明確にするために、「欺」く行為の中で検討した方が良いと考える(既遂となった本問では大きな問題にはならないが)。

 次に、「不法原因給付と詐欺」についても、同様に「欺」く行為の中で検討した方が良いと考える。仮に不法原因給付物を交付した場合には財産的損害がないと考えるなら、それは詐欺罪が成立しないことになる。財産的損害という別個の要件でこれを検討すると、やはり未遂と不成立の区別が曖昧になる気がする。

 最後に、「法禁物の財物性」については、「財物を交付させた」という要件の中で端的に触れれば足りると考える。「不法原因給付と詐欺」と実質的に同じ問題意識なので、万が一落としてもあまり問題ではない。

・甲の強盗殺人罪について、論点抽出自体は容易だが、それらをコンパクトに論証するのは準備していないと難しい。事務処理能力が問われている。

・正当防衛について、「不正」といえるかの認定が意外と難しい。Vの行為が「正」ではないといえば良いのだが、厳密に考えるとあらゆる可能性を潰す必要がある。具体的には、①正当な権利行使とはいえないこと、②正当な現行犯逮捕とはいえないこと、③正当防衛は成立しないこと、④自救行為としても行き過ぎであること、を指摘して初めて「不正」といえる。もっとも、現場でこのような「悪魔の証明」をする必要はなく、「社会通念上正当とはいえない」などと述べていずれか一つを否定すれば十分だったと思われる。

・正当防衛について、「自招侵害」として正当防衛状況が否定されないかも検討する必要もある。「不正」といえるかはV側の問題であり、自招侵害は甲側の問題であるから、これも検討する方が丁寧である。もっとも、Vの行為の違法性は甲の詐欺行為の違法性の程度を大きく超えているため、自招侵害として正当防衛状況が否定されることはないと考えられる。

・正当防衛について、防衛の意思は簡単に認定すべきである。「自分の身を守るとともに」と問題文に書かれているし、甲は憤激したりしているわけでもない。甲には殺意があるが、正当防衛において攻撃意思があるのは当然であるから、ここを捉えて「積極的加害意思」の論点を展開するのは適切でない。

・正当防衛について、防衛行為の相当性は流石に否定すべきである。ここは丁寧に当てはめて点数を稼ぎたい。そして、過剰防衛が成立することも忘れずに言及したい。

・乙の盗品等保管罪について、「知情後の保管」については誰もが気づくところであるから、保護法益から丁寧に論証して差を付けたい。

・乙の横領罪について、「売却した行為」が横領行為だという理解を明確に示したい。問題文の最後の「その代金を自己の用途に費消した」という記載は、明らかに引っかけである。場当たり的に検討するのではなく、作成者の仕掛けた罠に気付いた上で正しい筋を選べるようになると、点数が安定する。そして、仏像がVという「他人の物」であることに争いはない。また、委託信任関係(「占有」)についても、所有者ではない者との間の・犯罪行為の委託という2つのハードルがあるが、いずれも「財産秩序保護」のゴリ押しで認めた方が楽である。ここで委託信任関係を否定すると、「不法原因給付と詐欺」の論点の理由付け次第では矛盾が生じかねない。このような論理矛盾は大きな減点となるため、やはり委託信任関係は肯定した方が無難である。最後に、代金費消ではなく、売却行為が「横領」なのだということをしっかり書きたい。

 

〜予想採点実感〜

・「詐欺罪」(出題趣旨より)については、窃盗罪との区別・不法原因給付による財産的損害が問題となる。しかし、いずれの論点も正確に論述できていた答案は思いの外少なく、構成要件に事実を当てはめているだけの答案が散見された。いずれも基本的な論点であるだけに、残念であった。

・「強盗殺人未遂罪」(出題趣旨より)については、処分行為の要否・「暴行」の意義・既遂と未遂の基準・殺意がある場合の240条後段適用の可否など、多くの問題点がある。そして、これらについて適切に論述できている答案は比較的多かった。しかし、いわゆる論点主義に陥っている弊害なのか、論点の構成要件的位置づけが正しく理解できていない答案が多かった。例えば、「処分行為がなくとも『財産上不法の利益を得た』といえる」として、犯罪の不成立と未遂を混同しているかのような論述がされている答案が挙げられる。また、そもそも何の構成要件を論じているのか不明なまま、犯罪を成立させている答案も多かった。これはいわゆる論点主義の弊害だと思われるが、法律学において何よりも大切なのはまず条文である。条文の要件を満たさずして犯罪が成立することはあり得ない。いかなる犯罪を検討する場合でも、まずは条文の要件を検討し、必要に応じて論点を展開するという、法律学の基本的所作を身に付けてほしい。

・「正当防衛」(出題趣旨より)については、Vの行為は「不正」か・甲の行為は「やむを得ずにした」といえるか・いわゆる自招侵害として正当防衛状況が否定されないか、という問題点がある。まず、「Vの行為による『急迫不正の侵害』がある」として、当然のように「不正」としていた答案が多かった。しかし、通常の正当防衛の場合と異なり、Vは直前に甲の犯罪の被害者となっている以上、当然には「不正」とはいえないはずである。「急迫不正の侵害」という36条1項の文言は、「急迫」性と「不正」がそれぞれ問題となり得ることを理解していないのなら、それは勉強不足と言わざるを得ない。本問の特殊性に気づかなかったのなら、それは事案分析能力が不足している。いずれにせよ、「不正」について言及を要することは明らかな問題であった。次に、「やむを得ずにした」という要件との関係で、甲の防衛行為が相当性を有するかという点については、多くの答案では問題文の事実に適切な評価を加えた上で結論が導かれており、好印象であった。また、自招侵害については、明確に言及している答案はほとんどなかった。しかし、有名な最高裁判例がある以上、その事案との相違点を踏まえた上で論述することが求められた。なお、本問の甲には防衛の意思があることは明らかなので、いわゆる積極的加害意思について長々と論証する必要はない。事案の解決に関係のない一般的知識を長々書いたとして評価されることは基本的にないし、むしろ同論点の問題の所在を理解していないものと受け取られかねない。知っている知識が関係ありそうだからとりあえず書く、という論点主義的な答案は、司法試験予備試験においては求められていない。

・「盗品等保管罪」(出題趣旨より)については、知情後の保管行為が問題となる。多くの答案では同論点について正確な論述がなされていた。もっとも、そもそも仏像が同罪の客体になるのか、という点を一切論じていない答案が非常に多かった。確かに、仏像が「盗品その他財産に当たる行為によって領得された物」(256条1項)であることに争いはない。しかし、上述の通り、条文の構成要件を全て満たして初めて犯罪は成立する以上、このような問題とならない構成要件についても、必ず認定するべきである。

・「横領罪」(出題趣旨より)については、所有者でない者との犯罪行為の委託信任関係が問題となる。説得的な理由付けがなされていれば、いずれの結論でも問題はない。ただ、詐欺罪における「不法原因給付による財産的損害」での理由と矛盾するような理由でこれを否定している答案が一定数あった。そのような答案については、「論理的一貫性を保って」(出題趣旨より)論述されているとはいえず、低く評価せざるを得なかった。なお、本問での横領罪の既遂時期は売却行為と考えるのが一般的であるところ、何の理由もなしに代金費消行為を捉えて横領罪の成立を認めている答案が一定数あった。一般的な理解と異なる見解を採用する場合には、それ相応の説得的な理由付けが要求されるところである。

 

 こんな感じですかね〜。本問はとにかく論点が多く、実力者でもノーミスは厳しい問題です。また、基本的に三段論法をしている余裕はなく、コンパクトに論証できないと詰みます。事務処理能力の確認及び向上という観点では、本問ほど練習になる問題もないかと思います。良問です!

 

 今日の一曲…Fall Out Boy - Dead On Arrival