予備試験無双

令和2年予備試験合格(短答・論文・口述全て二桁前半の順位)

平成25年予備試験刑法

 こんにちは、アポロです。毎日過去問生活11日目、今日は平成25年予備試験刑法を解きました。

 完全な初見ではないですが、実際に書いたのは初めてです。かかった時間は65分でした。

 

〜選んだ解答筋〜

・甲の詐欺罪?

 ①「欺」く行為、錯誤あり。

 ②A名義の預金通帳等がある以上、「財物を交付させた」のと同視できる。

 ③成立。

・乙の詐欺罪の共同正犯?

 ①不特定多数人に対する詐欺罪の共謀あり。

 ②共謀の射程は及ばない。

 ③不成立。

・丙は詐欺罪の罪責負わない。

・丙の窃盗未遂罪?

 ①D銀行E支店長Fの占有する「他人の財物」。

 ②実行行為性があるか→未遂と不能の区別→具体的危険説→○。

 ③「窃取」できず。

 ④成立。

・甲の窃盗未遂罪の共謀共同正犯成立。

・乙は窃盗未遂罪の罪責負わない。

 

〜個人的な反省〜

・詐欺罪の既遂時期に明確に言及しなかったが、一応争いはある部分なので、簡単に言及すべきだった。

・「窃取」の認定が雑だった。

・不可罰的事後行為に一切言及しなかったが、ここも争いがあるので、言及すべきだった。

・乙の共同正犯を否定した後に、従犯について検討するのを忘れた。

 

〜問題の分析〜

・合格レベルの答案は容易に書けるので、その意味では簡単。ただ、気付きにくい細かい論点が多く、「完全解答」を作成するのは時間的・紙幅的に困難。

・甲の詐欺罪について、「詐欺罪の既遂時期」及び「1項詐欺と2項詐欺の区別」が問題となる。もっとも、大展開するような論点ではないので、構成要件を検討する中で自己の立場を明確にすれば足りる。結論として、A名義の口座に振り込まれた時点で既遂に達すると考えるのが一般的であるし、論理的な整合性も図りやすい。本問では、A名義の口座の預金通帳等を甲が有しているのがポイントである。この事実の抽出・評価を落とすとまずい。要は、いつでも口座から引き出せる状況を作出した時点で財物の交付と同視できるため、その時点で1項詐欺の既遂に達すると考えるのである。仮にこれを未遂とすれば、かなりややこしい処理になる。すなわち、これが2項詐欺として既遂に達しているかを検討する必要もあるし、それも否定すれば、丙の罪責では承継的共犯を論じることになる。しかし、出題趣旨にも「詐欺罪の客体」としか書いていないし、このような処理はアクロバティックと言わざるを得ない。現場でかかる構成を思いついた場合には、一度冷静になって構成を見直すべきである。刑法では、あくまで「一般的な理解」にしたがって答案を作成しなければ、思わぬ「論理的な落とし穴」にハマるので、気を付けたい。

・乙の詐欺罪について、「共謀の射程」が問題となる。不特定多数人に対する詐欺罪について共謀があることに争いはない。問題は、かかる共謀にはVへの詐欺罪の共謀も含まれているか、である。結論として、かかる共謀の射程は、Vに対する詐欺罪については及ばないというべきである。以下、私の答案を載せる。

 「確かに、甲は乙の用意した道具や犯罪スキームを用いて上記行為に及んでいるため、乙の及ぼした物理的因果性は一定程度ある。しかし、それらの道具や犯罪スキームだけでは犯罪は実行できず、預金口座等(の情報や預金通帳等)も手に入れる必要がある。従前はこれらは乙が用意していたが、今回は甲は自ら用意している。そのため、乙が及ぼした物理的因果性は大きくない。また、甲は乙に無断で上記行為に及んでおり、利益の全額を自分のものにしようとしていた。実際、50万円のうち45万円すなわち9割を自己の利益にしようとしており、従前の3割とは大きく異なる。そのため、従前の犯罪との動機の同一性・連続性はなく、乙が及ぼした心理的因果性は大きくない。」

 一見すると、よく書けている答案に読める。しかし、ここに書いていることはほぼ「余事記載」である。なぜなら、本問は厳密には「共謀の射程」の問題ではないからである(←「共謀の射程」の問題ではあるものの、大展開するほどの問題ではない、という方が適切かもしれない)。仮に「共謀の射程」の問題だとしても、心理的因果性のみを検討すれば足りるので、物理的因果性について書くのはズレている。では、本来は何を書くべきだったのか。

 「乙に無断で乙の指示した者以外に詐欺をするということは共謀の内容になっていない。」

 これだけである。これで必要十分であるし、むしろ的確である。そもそも、本来的に「共謀の射程」が問題になるのは(=論点として大展開すべきなのは)、「具体的な」犯罪の実行に着手した後に共犯者が暴走したような場合である。そのような場合には、動機の同一性・連続性(心理的因果性)について詳細な検討を加える必要がある。これに対して、本問では、乙はそもそもVへの詐欺の直前に「具体的な」詐欺を甲と実行したり、試みていたわけではない。そのため、これは単なる「共謀の内容」の問題である(上述の通り、広い意味では「共謀の射程」の問題といえるが)。また、物理的因果性を理由にこれを肯定するのは、大きな間違いである。そもそも、従犯と共同正犯の決定的な違いは「意思連絡(共謀)」である。「意思連絡(共謀)」の欠如を物理的因果性で埋め合わせるのは困難である。甲が乙の道具(本問でいえば犯罪スキーム)を利用したというのは幇助犯で検討されるべき事柄であって、共同正犯の成否でこれを検討するのは大きな誤りである。こうした誤った理解の原因は、おそらく「共謀の射程」と「離脱による共犯関係からの解消」の関係を適切に理解していないこと、「共謀の因果性」という言葉が一人歩きしていることにあると思われる。

 以下、この点に関する記述を『刑法総論の悩みどころ』(橋爪隆)370頁から抜粋する。

 「なお、共謀の射程はもっぱら共謀の心理的因果性に関わる問題であるため、物理的因果性の存否については、別個に検討する必要がある。共謀の射程が及ばないとしても、貸与した凶器が実行担当者によって用いられたような場合には、共謀者は結果惹起に対してもっぱら物理的因果性を有していることになるから、共犯関係の解消の場面において、心理的因果性のみが解消された場合と同様であり、もっぱら幇助犯の成否が問題となるだろう。」

 また、仮に共謀の内容になっていたとしても、乙にはVに対する詐欺の故意がない。このように言うと、「乙には不特定多数人に対する詐欺の概括的故意があった以上、Vに対する故意もそれに含まれる」という反論が想定される。しかし、そのような「概括的故意」を認めることには大きな問題がある。以下の事例を考えると、この反論の問題点がよくわかる。

 「甲と乙は、連日、2人であらゆる家に窃盗に入っていた。乙は鍵を開けるスペシャリストであり、窃盗のノウハウも知り尽くしていたため、甲にそれらを惜しみなく教えていた。ある日、甲は『自分1人で窃盗をすれば利益を独占できるのではないか』と考え、乙に無断で、Aの家に窃盗に入った。この場合、乙はAへの窃盗について罪責を負うか(特別法を除く)。」

 結論として、多くの人は「負わない」と答えるだろう。ここで「概括的故意」なるものを持ち出して乙の故意を肯定する人はほとんどいないはずである。本問は窃盗ではなく詐欺であるが、共犯という観点から見れば状況は同じである。おそらく、上記のような反論を考えた人は、「甲と乙がA宅に窃盗を試み、侵入が困難であったため断念したが、甲は突然B宅に走って侵入し、窃盗を遂げた」という事案と混同している。このような場合には「A宅以外には絶対に侵入しない」との約束があったような例外的場合を除き、共謀の射程も故意も否定されないだろう。 

 よって、本問では、第一にVへの詐欺は共謀の内容になっていないし、第二に乙はVへの詐欺の故意がないため、乙に共同正犯の罪責を負わせるべきではない。また、結論として乙の罪責を否定していても、「共謀の内容」の問題と「故意」の問題は明確に区別して論じるのが望ましい。

・共同正犯を否定しても、乙は道具や犯罪スキームの提供によって幇助をしているため、幇助犯の検討を要する。もっとも、乙には幇助の故意がないため、幇助犯も成立しない。よって、乙は何らの罪責も負わない。ここで、乙が罪責を負わないのはおかしいと考え、結論が不当と考える人もいるかもしれない。しかし、乙は従前繰り返してきた詐欺については当然罪責を負うのであるから(本問では言及不要)、何ら不当ではない。

・丙の窃盗未遂罪について、具体的危険説からは実行行為性を肯定することになる。そして、問題文の最後の「なお」以下は、「窃取」の認定に使うことになる。つまり、A名義の預金口座から引き出す「権限」を甲及び丙は一応有していた以上、丙の引出し行為はD銀行E支店長Fの意思に反せず(Vの意思に反するかは問題ではない)、「窃取」たり得ないのではないか、という反論が想定できるため、あえてかかる事情を記載しているのである。問題文の「なお書き」には何かしらの意味があることが多いので、こういう細かいメッセージにも気付けると印象が良い。

・甲の窃盗未遂罪について、甲にとっては不可罰的事後行為ではないか、という点が問題となる。結論として、不可罰的事後行為と考えるべきである。確かに、窃盗は新たにD銀行E支店長Fの占有を侵害している。しかし、詐欺は振り込まれた時点で既遂と考える(自説)根底には、振り込まれれば自由に引き出せる処分権限が与えられたも同然との評価がある以上、引出し行為については詐欺罪の評価に含まれている。そのため、引出し行為については詐欺罪で評価し尽くされているとして、窃盗罪は不可罰とするのが論理的である。もっとも、これを現場で考えるとかえって混乱しそうなので、かかる難解な議論は、自信がなければ無視した方が賢明である。

 

〜予想採点実感〜

・「詐欺罪の客体」(出題趣旨より)・「実行行為及びその既遂時期」(出題趣旨より)については、当然のように246条1項の詐欺罪を検討し、既遂としている答案が多かった。しかし、通常の詐欺罪(現金を手渡されたような事案)とは異なり、振り込まれたにすぎないという特殊性がある以上、この点については検討を要する。具体的には、そもそも振り込まれただけで246条1項の詐欺罪は既遂となるのか、既遂にならないとしたら、246条2項の詐欺罪として既遂と見ることはできないか、という点が問題となる。近年話題となっている「振り込め詐欺」(出題趣旨より)においては、少なからずかかる点が問題となる。それにもかかわらず、かかる点について明確に言及している答案は多くなく、残念であった。

・「共謀共同正犯の成立要件」(出題趣旨より)については、「基本的理解」(出題趣旨より)が疑われる答案が非常に多かった。そもそも、本問では「共謀の射程」を問題にするまでもなく共謀共同正犯が否定されるべきである。なぜなら、乙に無断で乙の指示した者以外に詐欺をするということが、共謀の内容になっていると見ることはできないからである。また、仮に「共謀の射程」を論ずるとしても、「物理的因果性」を理由に乙に罪責を負わせることはできない。共謀の射程で問題とされるべきはあくまで「心理的因果性」であり、具体的な共謀の欠如を「物理的因果性」で埋め合わせることは困難だからである。さらに、仮に「共謀の射程」がVに対する詐欺に及ぶとしても、乙にはVに対する詐欺の故意がない。「概括的故意」でVへの故意も認めるというのは、個人責任の原則の観点から大きな疑問がある。このように、本問ではおよそ乙に罪責を負わせることはできないにもかかわらず、少なからぬ答案が共謀共同正犯の成立を肯定しており、その理由も問題があるものが多かった。そのため、受験生全体として、「共謀」というごく基本的な概念への理解が疑われる結果となった。

・「窃盗未遂罪の成否」(出題趣旨より)については、適切に論じられている答案は多くなかった。預金口座の取引停止措置が取られている以上、そもそも実行行為性が欠けるのではないか、という問題意識を持ってほしかった。事前にかかる論点を知らなくとも、問題文の事実に着目してその点について論ずることは十分可能であったと思われる。また、興味深いことに、「詐欺罪の客体」(出題趣旨より)・「実行行為及びその既遂時期」(出題趣旨より)について適切に論じられていた答案の多くは、この点についても適切に論じられていた。そのため、「預金口座」や「現金自動預払機」といった事実に着目できた答案とそうでない答案とで大きな差がついた。

 

 

 こんな感じですかね〜。本問は実際に解くとそれほど難しいとは感じませんが、深く考えると悩ましい論点がいくつかあります。意見が割れる論点もあり、なかなか面白い問題です。そして、重要論点がバランス良く盛り込まれているため、その理解も確認できます。良問です!

 

 今日の一曲…ORANGE RANGE - はい!もしもし…夏です!