予備試験無双

令和2年予備試験合格(短答・論文・口述全て二桁前半の順位)

令和3年予備試験刑法

 令和3年予備試験刑法の答案構成をしたので、私の雑感について書きます。

 受験生のリアルな悩みを体験するため、私はこれを先入観が一切ない状態で解きました。また、このブログを書いてる現時点においても、何の文献も参照していません。しかも、私が法律の問題を解くのは2ヶ月ぶりです。そのため、以下の内容は多分に誤りを含んでいる可能性があります。その点はご了承下さい。

 そもそも、これは正解筋の解説というよりは、「予備合格者でもこんなもんか」と知ってもらい、安心してもらうための企画です。私自身、令和2年予備論文ではいくつかの設問で解答筋を大きく外しました。そのため、今回もいくつかの設問で解答筋を大きく外している可能性があります。なので、以下の内容はあくまで参考程度に読んで下さい。

 

 

〜答案構成〜

 

第1 甲

 1 窃盗○

 2 自己所有建造物等以外放火?

 (1) 本件帳簿は甲所有なので「自己の所有」○

 (2) 「放火」○

 (3) 「焼損」○

 (4) 「公共の危険」?

  ア 判例の規範(非限定説)

  イ あてはめ

   ・漁網は無主物なので問題ない

   ・釣り人にも延焼するおそれ自体は生じてないため問題ない

   ・釣り人の所有する原付に延焼するおそれが生じている

  ウ ○

 (5) 故意○

 (6) 「公共の危険」の認識の要否?

  ア 認識不要説(判例

  イ 甲が原付の存在を認識していなくとも問題なし

 (7) ○

 3 殺人の幇助?

 (1) 前提として、作為正犯に不作為で関与する者は原則として共犯にならない(通説)

 (2) 不作為の「幇助」

  ア 規範(危険な状態、作為義務、可能かつ容易、義務違反)

  イ あてはめ(救命確実な時点だったこと・止められた可能性高かったことにも言及)

  ウ ○

 (3) 因果性?

  ア 不作為の幇助の因果性=作為義務を果たせば実行が困難になっただろうといえれば良い

  イ あてはめ(救命確実な時点だったこと・止められた可能性高かったことに言及)

  ウ ○

 (4) 乙は甲の帰宅に気付いていなかったが、物理的に容易にする片面的幇助は成立し得る

 (5) 故意?→殺人の幇助ではなく嘱託殺人の幇助だと勘違い→38Ⅱ

 (6) ×

 4 嘱託殺人の幇助?

 (1) 客観的構成要件該当性(抽象的事実の錯誤)?

  ア 規範

  イ あてはめ(嘱託殺人の幇助の限度で実質的に重なる)

  ウ ○

 (2) ○

 5 罪数(全て併合罪

第2 乙

 1 殺人の単独正犯○

 2 罪数

(所要時間15分)

 

 

〜雑感〜

 

・難易度としては、例年と比べても簡単だと思う。

 

・検討すべき犯罪・論点は明らかな問題で、理論的に悩ましい部分も特になかった。令和2年と同様、このような問題では少しの勘違いが大きな失点に繋がるので、慎重に検討したい。また、答案構成を終えた段階で「どこで差をつけるか」という意識がないと、書けたつもりでも評価が伸び悩む可能性が高い。

 

・甲が本件帳簿を持ち出したことについて、横領や背任を検討する必要はないと考えた。というのも、本件帳簿は甲所有と問題文に書いてあるので、単に自己所有の物を持ち出したにすぎないからである。これは正規の帳簿ではなくいわゆる裏帳簿なので、法人の所有権を認めることは不可能だと思う。同様に、証拠隠滅のために裏帳簿を持ち出すことが任務違背行為に当たることもあり得ないと判断した。また、問題文のナンバリング的にも、1が窃盗、2が放火、3が殺人という風に犯罪ごとに区切られていると考えるのが素直である。仮に本件帳簿を持ち出した点も犯罪を検討して欲しいのなら、窃盗の段落に「2」とナンバリングされるはずである。←改めて問題文を読むと、成立しないにしても背任は検討する必要がある気がしてきた。現場だったら、全く触れないのは怖いので一言書いて否定するかもしれない。あるいは、成立するという筋もあるのだろうか。正直、よくわからない。

 

・窃盗については、特に言うことはない。一瞬だけ正当防衛や自救行為を考えたが、Yが本件帳簿を甲から盗んだという事案でもないので、流石に検討する実益はないと判断した。

 

・証拠隠滅については、流石に言及しなくて良いと思う。書くとすれば「『他人の刑事事件』ではない」と書くことになるが、ここでいう刑事事件とは何なのだろうか。脱税は刑法上の犯罪でもないし、よくわからないので言及する必要はないと考えた。

 

・自己所有建造物等以外放火については、判例の立場(非限定説)を前提に考えると、「公共の危険」のあてはめが少し悩ましい。漁網は無主物なので、これが燃えても自己物が燃えたのと法的には変わらないため、問題ないと考えた。釣り人が煙に包まれた点についても、あくまで延焼のおそれはないため問題ないと考えた。もっとも、価値判断的には違和感があるので反対説はあり得そうである(「焼損」の意義を巡る議論を想起した)。いずれにせよ、原付については延焼のおそれが生じている以上、非限定説からは「公共の危険」は認められるはずである。強いて言うなら、本件帳簿から直接ではなく漁網という無主物を介して原付に延焼のおそれが生じた点が気になるが、直接的か間接的かで結論が逆になるのは妥当でないので、おそらく結論には影響しないと思われる。また、甲は原付等の存在を認識していなかったが、これは故意ではなく「公共の危険」の認識の問題であることには注意したい。ここさえ間違えなければ、あとは判例の立場(認識不要説)か通説の立場(認識必要説)を簡単に論じれば足りる。

 

・殺人の幇助については、原則幇助説(通説)から簡単に共同正犯を否定し、あとは不作為の「幇助」・因果性・故意について典型論点を論じれば足りる。理論的には全く難しくないが、救命確実な時点だったこと・止められた可能性高かったことが不作為の「幇助」・因果性のいずれの論点との関係でも問題になり得ることには注意したい。救命確実な時点でなかったのなら作為義務も因果性も否定されるし、止められた可能性が著しく低かったのなら作為義務も因果性も否定され得るからである。なお、片面的幇助にも一言触れると加点事由かもしれない。

 

・乙の殺人については、びっくりするほど書くことがなかった。本当にこれで良いのか不安だが、共犯を論じさせるために出してきたモブキャラだと信じたい。

 

・得点のポイントは、①「公共の危険」のあてはめで3つの客体を丁寧に分析すること、②不作為の「幇助」・因果性のあてはめで救命可能な時点・止められた可能性が高かったことについて適切に言及すること、③抽象的事実の錯誤(客観>主観パターン)を38Ⅱを用いて丁寧に書くこと、の3点である。

 

・合否の分かれ目(C答案の基準)は、全体の構成を大きく外していないことを前提に、①②③についてある程度分量を割いていることである。ここのメリハリを誤ってどうでもいい犯罪・論点についてダラダラ書いてたりすると、このような簡単な問題では一気に評価を落とす。これに加えて、構成要件の定義・論証を正確に書けていたり、あてはめの方向性が間違っていなければ、AやBがつくと思う。

 

 

 こんな感じですかね〜。私自身は刑法はぶっちぎりのAだったので、上記の構成が正解筋であって欲しいです(もし間違ってたらプライドが傷つく笑)。何度も言いますが、あくまで勉強からしばらく離れた予備合格者が何も参照せずに自分の考えを書いてるだけなので、鵜呑みにはしないで下さい。おかしい記述もあると思いますが、これを題材に皆さん自身で考えてみて下さい。